僕はフリークアウトと呼ばれる現象や内観係数という人間の感情度指数の架空の概念を用いることで、人との距離を新たに見つめなおすのが本作のテーマだと思っていたために、中盤からの怒涛の展開にすっかり置いていかれてしまいました。僕が購入前に魅力を感じていたそれらの新しい概念は本作であまり重要視はされていませんでした(語弊があるかもしれませんが)。
本作のテーマはハッピーエンドのその先にある未来だと感じました。これは一般的な創作では語られません。僕たちは創作の中に生きる登場人物の長い人生の中の一部を切り取ったものを俯瞰的に見ていますが、物語が終わったあとも登場人物のキャラクターはその世界を生きていくわけです。逆に私たちは創作の世界を生きているわけではないのでずっと未来が続いていきます。本作はそんな創作と現実を結ぶ物語のように感じました。
主人公が目的を達成したあとの未来について真剣に向き合うのが良かったです。最後まで救済意志に囚われていた彼が、最後の最後にそれと対面し乗り越える様は特に良かったです。個別ルートを可能性の未来として各キャラクターを救済してきたからこそ、トゥルールートでの主人公の選択がより一層かけがえのないもののように感じました。茉実ルートが特に顕著ですが、人にとっての本当の救済がただ寄り添い合うことだとは必ずしも限りません。それは欺瞞にも成り得ます。転んだ女の子に手を貸すだけが救済ではなく、彼女が自ら立ち上がるのを見守るのもまた、等しく救済であると。
だからこそAFTERでの主人公の選択は、厳しくも尊重すべきものだと思いました。
自分を案じてくれる誰かを求めていた。
そうやって助け合って生きていければ、よっぽどステキだ。
……ただ、それは、美しくないことだ。
求められたから繋がって。
繋がったから寄る辺として。
そうして得られるものは、一時的な安心感と
いつか離れていくことへの恐怖だけだ。
――差し出されないと差し出せない程度のものは、
いつか壊れるんだ。
だって、そこには、芯がなかったから。
相手に託さないと成り立たないような関係性は、
脆く崩れやすいんだ。
本作のテーマはこれに尽きると思いました。
物語のテーマが二転三転するのは読んでいてこんがらがるだけでなく真のテーマに対しても薄らいでしまうように感じました。また終盤の個別での各キャラクターの背景についても、もう少し掘り下げて丁寧に描写して欲しかったです。ただ少ないCGの中、立ち絵と文字だけでこれだけの読ませる文章を書けるのは立派な筆力だと思ったので、次回作も楽しみにしております。